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5年後、ネットメディアは生き残れるか?BuzzFeed Japanトップに聞く、ハフポスト合併で描く成功のシナリオ - Business Insider Japan

撮影:吉川慧

ネットメディア大手のBuzzFeed Japanとハフポスト日本版の運営会社が合併し、5月1日に新会社が発足しました。2020年11月に米BuzzFeedが米ハフポストを買収したことを受けて、日本でも両メディアは一つの会社としての道を歩みます。

これまでBuzzFeed Japanには4つのバーティカル(ブランド)がありましたが、そこにハフポスト日本版が加わる形に。読者にとって、この合併はどんなメリットがあるのでしょうか。この先、どのようなビジネス戦略を考え、どのようなメディアを目指すのでしょうか。

BuzzFeed Japanのスコット・マッケンジーCEOと小林明子編集長に聞きました。

(※記事内容はオンラインで取材を実施した4月20日現在の内容に基づきます。)

同じ会社になることは「理にかなっている」

ハフポスト(旧ハフィントンポスト)創設者のアリアナ・ハフィントン氏(左)とBuzzFeed創設者のジョナ・ペレッティ氏。ペレッティ氏はハフポストの共同創設者の一人だった。

ハフポスト(旧ハフィントンポスト)創設者のアリアナ・ハフィントン氏(左)とBuzzFeed創設者のジョナ・ペレッティ氏。ペレッティ氏はハフポストの共同創設者の一人だった。

REUTERS/Mike Blake,Nicholas Hunt/Getty Images

── 日本でのBuzzFeedとハフポストの統合、合併の話はいつ頃から始まりましたか。

スコット・マッケンジーCEO(以下、マッケンジー):(2020年11月に)アメリカでBuzzFeedがハフポストを買収すると発表された後ですね。「では、日本はどうしましょうか」と。そのタイミングぐらいからです。

── 数カ月、両社間で議論があった。

マッケンジー: 合併は簡単にすぐできることではなく、数か月にわたって話し合いました。

BuzzFeedもハフポストも、ネットメディアではトップクラスの強いブランドだと思っています。 USと同じように、日本でも一緒になったらさらにポテンシャルが向上する。私たちはポジティブに「どうすれば日本で一緒に仕事ができるか」を考えました。

小林明子編集長(以下、小林):BuzzFeed Japanがローンチして5年、ハフポスト日本版は8年。この2つが初めて日本に来た時のことを思い出しました。「あぁ、あの時みたいな驚きがもう1回やってきたな」という感じです。

その渦中に自分も参加させてもらえていることのワクワク感、日本のメディア業界を驚かせた、あの時のようなことが起きるかもしれないと率直に感じました。

マッケンジー:BuzzFeed創業者のジョナ・ペレッティは元ハフポストの共同創業者です。

彼は両方のブランドを深く理解しています。同じ会社になることは理にかなっている。

彼は「ハフポストは歴史があるだけではなく、将来的にBuzzFeedと一緒になったらポテンシャルがあると思っている。すごくいいマッチだと思う」と言っています。

「ビジネスサイドにとっても大きなメリット」

決算広告を元にBusiness Insider Japan作成

── BuzzFeed Japanという会社の中に「ハフポスト日本版」ができることになりますね。

マッケンジー: 私たちBuzzFeed Japanは、これから5つのバーティカル体制となります。

エンタメや商品情報を紹介するBuzzFeed Japan、報道部門のBuzzFeed Japan News、グルメレシピを紹介するTasty Japan、コスメ情報などを紹介するBuzzFeed Kawaii、そしてハフポスト日本版。

私たちは5つのブランド全てが重要だと思っており、それぞれが独立してコンテンツを出すことは続きます。

── BuzzFeed JapanはUVが3500万人以上、ハフポストが2400万人。重なっているところもあると思いますが、スケールメリットはあるのでしょうか。

マッケンジー: この規模のリーチがあるメディアが誕生することは、私たちビジネスサイドにとっても大きなメリットがあると思います。ネット上でより多くのオーディエンスにリーチしたい広告クライアントにとっては、5ブランドを軸とする広告の組み合わせオプションが増えます。

私たちも、各バーティカルをバンドルした広告コンテンツや広告のパッケージ商品を販売することもできるようになります。 それぞれのバーティカルの強さは、クライアントのニーズに合わせられますし、広告パッケージをカスタマイズできることも大きなメリットの1つだと思います。

どちらも日本のネットメディア市場でブランドがあり、事業も黒字化しています。そして、それぞれに強みがあり、優秀な人材もいます。 互いに得意な領域やスキルとノウハウを合わせて、より素晴らしい企業へ発展できると思います。

「BtoC」分野、ファンに愛される動画・番組への期待

「Tasty」のレシピ本。

「Tasty」のレシピ本。

撮影:吉川慧

── ビジネスを拡大していく中で、力を入れたい部分は。

マッケンジー:Eコマースでは、BuzzFeedはアメリカでライセンシングビジネスを数年にわたり行なっています。例えば、Tastyブランドのキッチン用品や食品、子供のおもちゃなど多岐に渡ります。

日本でも昨年からこのライセンスビジネスがはじまり、小学館からTastyのレシピ本シリーズを発売し、富澤商店とは「Tasty×TOMIZ」でドライフルーツなどを販売しました。その後も様々な企業と検討しています。

今後もファンに愛されるライセンスビジネスやコンシューマープロダクトを育てていきたいと思います。

── BtoCのビジネスには更なる可能性があると。

マッケンジー:そうですね。それ以外にも力を入れたいのは番組系、ネットで配信する動画です。Z世代からミレニアル世代を対象に美容やグルメ、お役立ち情報などを発信しているBuzzFeed Kawaiiでは昨年12月より『めっちゃKawaii TV』という、りゅうちぇるさんとAKB48の横山由依さんが出演する番組がはじまりました。

ハフポストでも『ハフライブ』という番組が成功しています。他のバーティカルでもユニークな番組を制作していきたいと思います。

小林:Twitterでは、Periscopeに代わってライブができるシステム(Twitterライブ)も始まりました。

これ以外にも、例えば3月に配信したSDGsのオンラインイベントは完全にYouTubeで配信し、YouTube Liveの知見も得られました。 YouTube、Twitter、Instagramなどなどプラットフォームを限らず色々な入り口でコンテンツを提供することが今後もできると思っています。テーマに合わせて、どこのプラットフォームがいいかなと考えているので。

動画コンテンツでできることの幅は日々広がっています。例えば「コメントを沢山寄せてほしいな」という時はYouTubeやInstagramで。「双方向性が見えると良い」というときは観覧中の方にZoomで参加してもらうこともできます。StreamYardを用いて出演者全員が在宅のまま配信するということもできます。

マッケンジー:私たちは5つのブランドのポートフォリオをもとに、日本での最も成長したデジタルメディアカンパニーをつくりたい。私たちは実現できると考えています。それぞれのブランドを育てて、記事系のコンテンツも動画コンテンツも大切にして、成長したいと思っています。

── 2020年はコロナ禍の影響で上半期は広告費が落ち込む一方、3Qや4Qには回復傾向にあるという話を耳にしました。

マッケンジー:広告主からの動画コンテンツに対する問い合わせも増えています。オーディエンスのネット利用時間は益々増えています。今後も紙などからデジタルへと出稿を増やす傾向が続くことは間違いないと思います。

ハフポストとの棲み分けは?「カニバる」心配は?

報道部門であるBuzzFeed Newsのトップページ。メディカル部門(BuzzFeed Medical)を擁し、ニュースエディター・岩永直子氏は一連のHPVワクチン報道でInternet Media Awards選考委員特別賞を受賞した。

報道部門であるBuzzFeed Newsのトップページ。メディカル部門(BuzzFeed Medical)を擁し、ニュースエディター・岩永直子氏は一連のHPVワクチン報道でInternet Media Awards選考委員特別賞を受賞した。

BuzzFeed News

── コンテンツではどんな分野に注力していきますか。

小林: BuzzFeed Japan Newsでは、ファクトチェックの強化と、コロナ禍でさらにニーズが高まっている信頼できる医療情報の提供です。

これらの記事をオーディエンスにどうやってお届けするか、今のオーディエンスにとどまらずZ世代をはじめ、ニュースに日頃ふれていない人たちにどう間口を広げていくかに挑戦をしています

外からみると、例えばSDGsやジェンダーに関するテーマを報じる時はハフポストと被っているように見えるかもしれませんが、編集方針やコンテンツの届け方は異なります。

BuzzFeed Japanでは「ほしい明日がみつかるメディア」と銘打ってユーザーの生活や消費スタイルを考えたコンテンツを目指しています。 特に今はコロナ禍で、ショッピングに関する情報需要が高まっており、今年はさらに強化したいと考えています。

私たちの目標としては「人々の消費スタイルを変革する」というところを1つの目標に挙げています

今ではBuzzFeed Japanの記事を読んで「この記事が良かったから買ってみようかな」と思ってくれている人もいます。そこからさらに進んで「買い物に行くなら、BuzzFeedの記事を読んでから」というように、記事で情報を得ることも消費スタイルの一部になれば…という思いでいます。

── ハフポストの竹下編集長は、BuzzFeed Japanの各バーティカルと横の連携ができるのではないかと、期待を込めた内容のブログを出していました。同じテーマのコンテンツを、一緒に作ることができるかもしれないと。

小林:例えば、昨年BuzzFeed JapanでSDGsの特集を実施した際に、Tasty Japanでも同じテーマの動画を制作しました。このように、可能性は大いにあると思います。

お互いが企画を持ち合って、同じテーマでコラボができることは相乗効果をもたらしますし、さまざまな特集と連動できる可能性もあるので、今後の広がりを期待しています。

BuzzFeed Japan Newsは「Reporting to you」という理念があります。友達に伝えるようにニュースをお届けするのがBuzzFeed Japan News。一方、(特定の話題について)一定の興味・関心を持っている人たちに「会話を生み出す」ことを目指すのがハフポストというように「棲み分け」についても話しています。

── 統合のニュースが出た時には「かぶる領域多いよね」「カニバるのでは」という話もありました。

小林:その点については、ネガティブに捉えていないというのが近いかもしれないですね。

社内では例えば「『週刊朝日』と『AERA』みたいな関係になるのかな」という話がありましたが、BuzzFeed Japan Newsとハフポスト日本版が同じ会社の中にあっても、媒体は違うわけで。

もちろん大きなトピックやテーマは被るかもしれませんが、編集方針が全く違ったり、オーディエンスも違ったりするので、双方にとって有益になると思っています。

現場の記者の動き方も、時に連携や情報共有をしながらやっていくことになるとは思います。

「BuzzFeedならではのコンテンツフレームを大事に」

—— ここ数年でネットでの記事の伝え方、表現の仕方は発展してきました。5年前なら記事にツイートをエンベッドしているだけで進んでいるという時代でしたが、動画やインフォグラフィックを使った表現も増えてきました。リソースに長じたNHKや朝日新聞など、伝統メディアもネットでのコンテンツに力を入れています。

小林: リソースをかけた伝統メディアが提供するインフォグラフィックとかは多いに参考にさせてもらっています。

── BuzzFeedもハフポストも、CMSはいずれも日本ではなく本国が開発していますね。

小林:コンテンツを作る上で、時折システム上の限界はありますが、私たちの強みは創業当時からある「PDCAを回して知見を溜めていく」というところです。それは今もずっと続いています。

綺麗でわかりやすいコンテンツを出して「よかった」で終わらせるのではなく、記事を読んだオーディエンスがどう反応し、なぜ伸びたのか、もしくはなぜ伸びなかったのかをきちんと分析します。その上で、このフレームを続けるのか、それとも変えるのかも常にアップデートしています。

大事なのはBuzzFeedならではの、独自のコンテンツのフレームです。それは手法だけではなく新しいテーマの開発かもしれないし、届け方の開発かもしれません。

そして、私たちは少数精鋭のメディアです。一人ひとりがコンテンツを制作し、そこで得た知見を活かして、さらに優れたコンテンツを生み出します。

段々とブラッシュアップし、社内でノウハウを共有する。それをさらに応用し、アレンジする文化は私たちの強みだと思っています。

常に「オーディエンスファースト」「ユーザーファースト」を目指す。

BuzzFeed Japanより

── マッケンジーさんはMTVから、小林さんは新聞と雑誌を経てネットメディアに入られた。転職当時と今で、見える景色は変わりましたか。

マッケンジー:まず、時代の空気は大きく変わったと思います。自分が10代の頃や働きはじめた頃は、特にテレビから得るトレンドやエンタメ情報の影響力が強かったと思います。

今の10代はみんながデジタル世代です。皆がスマホを使っている。触れるメディアや接触するポイントも違う。メディアもそれにあわせてコンテンツをどう届けるかを考えなければなりません。

いつ、どこで、どんなコンテンツを届けるのか。 常にオーディエンスファースト、ユーザーファーストであること、ユーザーのニーズを考えることは、今後メディアには非常に大切なポイントだと思います

小林: 5年前を振り返っていましたが、私がそもそもBuzzFeedに転職した理由は「自分の子どもがニュースを読む媒体をつくりたい」と思ったことでした。

ジェンダーに関する問題などに関心がありましたが「伝えたいこと」を読者の立場を考えてどう伝えるか、その手法は大切だと思います。 ただ私の子どもはYouTubeに夢中なので、まだまだ全然勝てていないと思いますが…(笑)。

マッケンジー:プラットフォームの特性を活かしてコンテンツを配信することはアメリカでBuzzFeedが設立された時からの強みです。

いま世の中にどんなトレンドがあり、どんなコンテンツが、どのプラットフォームと親和性があるか。その戦略的なノウハウがあります。これを常に意識し、学び続けていきます 。

「信頼性と収益性は相反するものではない」

ニューヨークのBuzzfeed Newsオフィス。

ニューヨークのBuzzfeed Newsオフィス。

GettyImages/ Drew Angerer

── ネットメディア専業では国内で最大規模の会社になります。

マッケンジー:これから5年後の世界がどうなるか、100%の自身を持って答えることは誰もできないと思います。ただ、テクノロジー企業とメディア企業がだんだんとECに注力していくトレンドは続くと思います

コンテンツの配信は、もっともっとデジタルにシフトするでしょう。BuzzFeedは、ダイバーシファイドなデジタルコンテンツを生み出す企業として確立しました。

これからも、それぞれのジャンルで良いコンテンツを生み出し続けることが大切です。

5年後に世界がどうなっているのか、オーディエンスの元にコンテンツが届くまでの過程にどんな変化が生まれるのか大切なポイントでしょう。

ですが、BuzzFeedのコアである「Spread Joy and Truth」の理念は変わりません。たとえ5年後であっても「良いコンテンツは、良いコンテンツ」であり続けることでしょう

小林:個人が情報を発信できる時代になり、企業は社会貢献への関心を伝えるコンテンツを企業発で発信している。中にはそれがバズって、社会を良くする方向になっている試みもあります。

こうした中で、メディアで働く人たちは「メディアの存在意義」を考えていかなければならないと思います。

今回の合併を機に「私たちの強みは何だろう」と改めて考えました。それはメディアとしての「意味」にも繋がる。この意味や意義を自覚しない限り、メディアの発信が淘汰される可能性もあるのかなと思っています。

ニュースであってもエンタメであっても、私たちが提供するものが信頼性のあるコンテンツであると担保し、伝えることができるか。これを追求しなければならないと考えています

── 収益性と信頼性を担保しながら、ネットメディアとして存続してくことは可能でしょうか。

小林:私は、信頼性と収益性は相反するものではないと思っています。今はこれまでの5年間で培った信頼に頼っているところが大きいと思います。

SDGsに関する記事、ジェンダーやLGBTに関するテーマに取り組んでおり、読者も信頼してくださっている。そして広告主の皆さまからも「BuzzFeedに出稿したい」というお話につながっています。

信頼性のために収益からさらに投資をする必要もあると思います。会社が大きくなるからこそ、そのサイクルを効率的に回していくことができるといいなと私は思っています。

マッケンジー:「あちらを立てればこちらが立たず」ではないですね。高品質なエンタメ記事、信頼できるニュースコンテンツ、おいしいレシピを紹介するTasty……。いずれもオーディエンスの皆さまから支持され、信頼してもらえるコンテンツを出すことが持続可能なビジネスに繋がると思います。

これからも成長を目指します。コンテンツのボリュームも拡大しつつ、さらに広いオーディエンスにリーチできるよう努力し続けます。

※情報開示:筆者は2016年3月〜18年9月までハフポスト日本版に、2018年9月〜2019年12月までBuzzFeed Japanに在籍していた。

(取材・構成:吉川慧

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