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途上国から貧困、医療を考えよう ビジネスを通じた社会課題の解決も | 朝日新聞 2030 SDGs - 2030 SDGsで変える

SDGsは「貧困をなくそう」を目標にしています。このテーマを考える際、「何をもって貧困と定義するのか」「数字だけで貧困を判断できない」という難しさがあります。今回は貧困にまつわる指標を示しつつ、アフリカのケニアで障害児への療育を通じて貧困と向き合ってきた小児科医を取り上げます。事業を通じて社会課題の解決をめざす「ソーシャルビジネス」や、産地支援を重視した西アフリカの食料ビジネスも紹介します。

(SDGsミライテラスのサイトはこちら

ケニアの首都ナイロビのスラム街で靴やシャツ、マットレスを売る露天商ら=2020年1月20日撮影

貧困層は世界で7億人超 半数が子供

「国際貧困ライン」という目安が、世界銀行によって設定されています。1日1.9ドル(約250円)。下回ると、極度の貧困状態とみなされます。世界で10%、約7億3600万人が該当し、半数が子どもです。この25年間で11億人以上が貧困から脱しているものの、依然として深刻です。貧困層の85%が南アジアとサハラ以南のアフリカに集中しています。また、国連開発計画(UNDP)の「多次元貧困指数」という指標では、2019年の時点で13億人が貧困層に含まれます。こちらも80%超が南アジアとサハラ以南に偏在しています。

アフリカ最大と言われるナイロビのスラム街。トタンや土壁の家が所狭しと建てられている=2020年3月12日撮影

成長著しいケニア経済 貧困層の暮らしは不変

「電気が通る地域が増え、携帯電話を持つ人も多くなりました。でも、生活のあらゆる面でお金がかかる時代になりました。貧困層の暮らしは、私がケニアに来た20年前から改善していないと思います」そう語るのは、ケニアの首都ナイロビ近郊で働く小児科医の公文和子さん(53)です。ケニアは2021年の国内総生産(GDP)の実質成長率が7.5%と高い数字を示しました。公文さんは「中流や上流階級が増え、その人々の生活は良くなりました」と語る一方、貧困が根深いと指摘します。

障害児と家族の療育施設「シロアムの園」で診察する公文和子さん(本人提供、以下も)

東京都で育った公文さんは、北海道大医学部を卒業し、2002年に国際協力機構(JICA)のエイズ専門家として現地で働くようになりました。一般外来、エイズ外来、スラム街の保健活動などに携わり、障害児と家族の抱える困難を見過ごせないと感じました。

障害児の8割が途上国 差別や偏見の対象にも

一つには、出産時に適切な医療が施されず、障害が残る子供が多いことがあります。貧しくて医療費が支払えないのも一因です。世界保健機関(WHO)によると、世界人口の約15%にあたる10億人以上が障害を抱え、障害者のおよそ8割が途上国で暮らしています。ケニアは専門の医療施設が少なく、障害を抱えたまま生きるのが難しい現実もあります。障害児と家族は差別や偏見の対象にもなり、「悪霊がとりついているとか、障害児が不幸を呼ぶとも言われます」。障害児は医療や教育にお金がかかるため、子供は家に閉じこもり、家族は経済的に苦しみます。「自己肯定感が低く、落ち込みがちな状態で生活しています」。

公文さんにとびっきりの笑顔を見せたクライド君。昨年亡くなった

「この人々に仕えよう」クライド君の笑顔が転機

転機は10年前でした。生後まもなく脳に酸素がいかず、重度の脳性マヒになったクライド君を診察した時のことです。12歳。側彎症(そくわんしょう)で、手足が大きく曲がっていました。体が大きく、親が抱き上げることもできません。家にこもっていましたが、公文さんが診察室に入ると笑顔を見せました。公文さんは心を揺さぶられました。「こんな素晴らしく、人の心を動かす笑顔が世の中にあるんだ」。彼は医療やリハビリに通うようになりました。あるとき、公文さんがリハビリ室に行くとクライド君が、今度はとびっきりの笑顔でほほえみました。

「表情のない子供が笑顔を浮かべられるようになる時があります。《心の中ですごく楽しい》ということを表していると思います。努力して表情を浮かべ、相手が受け止めてくれると分かったら子供は発信します。子供は可能性を持った存在で、手助けすると、もっと素晴らしくなります」

クリスチャンでもある公文さんの心は決まりました。

「この人たちに仕え、この人たちと共に生きていこう」

障害児と家族の居場所に 「シロアムの園」

障害児と家族の居場所が必要と考え、2015年、「シロアムの園」という療育施設をつくりました。「シロアム」は聖書に出てくる、目の見えない人を癒やした池から名付けました。借地に立つ一軒家です。

2015年、ナイロビ近郊にできた障害児と家族のための療育施設「シロアムの園」

映画「風に立つライオン」でケニアを訪れたシンガー・ソングライター、さだまさしさんの励ましも支えになりました。さださんは「風に立つライオン基金」をつくり、資金面で支えてきました。

「シロアムの園」では理学療法士、作業療法士、幼稚園教師、ソーシャルワーカーなど約20人が働き、2~16歳の障害児約50人が通っています。6割が脳性マヒで、3割が重い自閉症です。障害児が社会で生きていくことを念頭に療育サービスを施しています。重度障害児はリハビリで心地良く過ごせるように。知的障害児は自分でご飯を食べ、排泄(はいせつ)できるように。「障害を抱えた子が自分で意思決定できることを目標にしています。身体的、精神的、コミュニケーションのリハビリに取り組んでいます。家族も支援します」。

理学療法士のムハンジさんが脳性マヒのマイケル君とリハビリする様子

課題もあります。障害が治って療育の必要がなくなる子供はほとんどいません。「重度障害児は行くところがなく、卒園の概念がありません」。待機児は約70人。そこで、少しでも多くの障害児を受けいれる新施設をつくり、職業訓練校に行けるように療育プログラムも始めることにしました。

新「シロアムの園」完成 社会を変える拠点に

今年8月、ナイロビ郊外の約4千平方㍍の場所で新しい「シロアムの園」が稼働しました。診察室、リハビリ室、集会室、教室に加え、宿泊施設つきの研修センターも建設します。

新しい「シロアムの園」。日本の支援者の寄付もあって完成にこぎつけた

「地域に根差し、他の人がやりたいと思う活動をしたい。社会を変えるために子供や家族が発信できるように寄り添いたいです」。総工費は8千万円弱。朝日新聞社のクラウドファンディング「A-port」で約1621万円が集まったほか、支援者、企業の寄付や自らのお金でまかないました。ただ、ケニアは急速なインフレに見舞われています。「半年で物価が1.5~2倍に上がり、ガソリン価格も2年前の2倍です。日本からの寄付で運営費をまかなっているので、円安も痛手です」。公文さんは一層の支援を呼びかけ、奔走しています。

今夏、ケニアから一時帰国した公文さん=2022年8月7日、東京都目黒区

緑豆事業でバングラの農家救う ユーグレナ

次は、ビジネスで貧困や栄養失調、飢餓の解決をめざすバイオベンチャー企業ユーグレナ(東京都港区)を紹介しましょう。バングラデシュで合弁会社をつくり、2014年からもやしの原料となる緑豆(りょくとう)の栽培指導に取り組んでいます。

バングラデシュで緑豆を栽培する様子(ユーグレナ提供、以下同)
育った緑豆

緑豆は現地でスープにすることの多い食材で、この事業は①農家の雇用創出(収入の安定と向上)②隣国ミャンマーの政変で流入した少数民族「ロヒンギャ」の難民への食料供給――の2つを企図しています。

ロヒンギャ難民キャンプの様子(2017 年撮影)

国連世界食糧計画(WFP)と提携。緑豆をWFPが買い取って難民に提供しています。緑豆をつくって販売した農家は収入を得ます。社会課題の解決をめざす「ソーシャルビジネス」と言えましょう。ミライテラスの開催当日は、グラミンユーグレナ社長の佐竹右行さんが現地から出演し、詳細をお話しする予定です

西アフリカをパイナップル産地に ドール始動

西アフリカでは、産地支援を重視した世界的なビジネスの案件が動き出しました。 伊藤忠商事はドールアジアホールディングスを通じて世界での青果物の加工食品事業とアジアでの青果物事業を手がけています。パイナップルとバナナ、その加工品がメインの商品です。パイナップルは赤道のおおむね南北緯度20度以内でつくられ、ドールはフィリピン、タイで生産しています。今般、産地分散のためにシエラレオネに生産拠点をつくり、今年から一部が稼働しました。首都フリータウンから直線で約200㎞離れた地域です。車で5時間半かかるそうで、道路整備も追いついていない場所です。

シエラレオは1961年に英国から独立し、日本の5分の1の国土に約781万人が暮らしています。ダイヤモンドやコーヒー、ココアが主産業で、食品を加工したビジネスはこれまで、ほとんどありません。そこに挑戦するビジネスです。在留邦人はごく少数で、日本人にとってなじみの薄い国です。

シエラレオネのパイナップル農園。世界で産地を分散する狙いがある(伊藤忠商事提供、以下同)

なぜ、シエラレオネでしょうか。ミライテラスの当日に詳細をお話ししますので、簡単に言及します。温暖な気候と豊かな土壌がパイナップルの産地として適していることが分かったから、とご理解ください。大消費地の欧米に近いのも魅力でした。

パイナップルを収穫する様子

衛生的な水、医療サービスを ビジネスとの共存

でも、途上国でビジネスを長く続けるには、地域の問題と向きあう姿勢が求められます。シエラレオネでは1日1.9㌦以下で暮らす貧困層が半数以上です。そこで、約1500人を採用して雇用を創出し、集落に井戸を幾つも掘って衛生的な水を供給しています。それまでは河川の水を使い、衛生状態も芳しくなかったとのことです。事業規模を徐々に拡大していく方針で、将来は3千人以上の人が働くことになるようです。

妊婦を診察する日本人医師。現地では医療サービスも始まった
シエラレオネは道路事情が悪く、整備する必要があるという

健康管理も大事になってきます。医師が診療所を開き、従業員と家族は無償で医療サービスを受けられるようにもしました。もちろん、地域住民も受けいれます。そして、パイナップル加工品の出荷港となるフリータウンまでの道も少しずつ整備するそうです。伊藤忠食料カンパニーの小林諒さん(40)は、「パイナップルを地域の産業として成り立たせるためには、住民の生活環境を整え、会社と地域が共に発展する必要があります。事業だけを考えていたのでは理解が得られません」と話します。

構想からシエラレオネ政府の理解を得て、工場稼働に至るまでに10年ほどかかりました。現地との信頼関係を醸成させるためにも、貧困解決につながる取り組みは欠かせないようです。

    ◇

次回ミライテラス 10/20「ごみは厄介者か?」

「SDGsミライテラス」は今後も月に1度、ゲストを招きSDGsの展開について多角的に考察します。次回は10月20日(木)18時から、テーマは「ごみは厄介者か?」です。増え続ける都市のごみと私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。

「リサイクル実績日本一」とされる鹿児島県大崎町の取り組みを紹介。昆虫の力を使ってごみを資源に変えたベンチャー企業の経営者も出演します。海外中継はアラブ首長国連邦ドバイから。現地で伊藤忠商事らが建設している世界最大級のごみ処理発電施設のプロジェクト担当者がビジネスを通じた社会課題解決の方策を語ります。参加無料です。ミライテラスの特設サイトからの申し込みが必要です。お申し込み頂いた方は1週間程度、見逃し視聴できます。

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